ディレクター 森田 遥平
2009年よりTBS「世界ふしぎ発見!」などのADを経て、2011年テレビ朝日「美味旬感」でDデビュー。2018年はNHK「FIFAワールドカップ開幕直前スペシャル」、NHKBS1「世界はTokyoを目指す〜柔道・松本薫〜」などに参加・演出。レギュラーでは現在NHK「サラメシ」を担当。
ディレクターとしての初めての仕事は、宮城県名取市。名産である赤貝をとる漁師の取材でした。ロケ日は2011年3月12日。そう、東日本大震災の翌日に、現地に向かう段取りになっていたんです。当然ながらロケは中止。間一髪で助かったのはいいが、取材先漁師の安否が気になる。それからはネットで避難者リストを探る日々。まあ結果としては、彼も、彼の家族も無事だったのでとにかく良かった!とにかく良かった…しかし、そんな安心感と共に、僕の中には罪悪感のような、モヤモヤした気持ちが立ち上がって来たのを覚えています。それは避難者リストに彼の名前を見つけた瞬間、“自分の中の震災”が早々に終わってしまったからでした。なにかの雑誌でビートたけしがあの震災のことを「“1万人”が死んだのではない。“1人の人”が1万回死んだのだ」と言っていたのを、なんとなく覚えています。果たして自分にそう考えられる想像力があったのだろうか、と。
僕は『岸辺のアルバム』というドラマが好きです。1974年の多摩川水害を扱った作品なのですが、そこに描かれるのは単なる災害ではありません。そこには家が流される家族がいて、その家族には倒産寸前の会社で部長をする夫がいて、良妻賢母なのに…浮気してる?という妻がいて、真面目なんだか不真面目なんだか分からない娘がいて、優しいんだけど…勉強しろよ!と言いたくなる息子がいて・・・つまるところ、一人一人の生活がちゃんとあるんです。山田太一はどんだけ色んなこと想像してんだよ、と思います。すごいな。ドラマでもドキュメンタリーでも、テレビでも映画でも小説でも、それこそネットコンテンツでも、心を揺さぶる作品の源泉には“創造”より先に“想像”がある。
僕はこの会社に入って、色んなところに行き、色んな人に会ってきました。様々な価値観に触れ続ける毎日です。ここには想像力を鍛える土壌も、披露する土壌もあります。だからこそテレビなんて古い…と考えるにはもったいない。何かを“創り”たいと思ってる方(むろんテレビには限らず)は、この会社に入って損は無いはず。あれから7年経った今、そう思います。