石のことば~彫刻家・藤好邦江のイタリアの日々~
色々な顔を持っている人は面白い。私の目の前で、フェミニンなワンピースを着てしとやかにフレンチのコースを楽しむ美女は、普段は二人前のパスタをペロリと平らげ、立ったままプロテインを流し込み、手をたたいて大笑いする男前である。数年前、ろくに金も持たず、何のあてもなくイタリアに渡ったという彼女に、私はひそかに「冒険野郎」という綽名をつけた。寝苦しい夜、宿を出て橋の下で眠ったりもしたらしい。
冒険野郎の正体は彫刻家。石彫の聖地イタリア・カラーラで腕を磨き、今年の5月、作品がローマ法王に献上されたほどの腕前を持つ。
彼女のひたむきさと確かな技術の秘密を知りたいと思った私だが、今心配しているのは、彼女の思い出の場所を巡るロケの最中、その美しい瞳からぽろりとこぼれた涙に、ディレクターがやられてしまってはいまいかということである。男は強い女の涙に弱いからなあ。
(三戸浩美)