知られざる始皇帝~もうひとつの『キングダム』~
歴史上誰に会いたい?
答えはいつも、始皇帝だった。
学生の頃、中国美術の歴史を学び、北の峻厳な山々の風景と、南の湿潤な平原の風景とが両方、絵画なら描き方の違い、陶磁器なら色の好みの違いまで生んだ事に感嘆して来たが、これがもしヨーロッパのように別々の国だとしたら大して驚きはしない。国が違えば文化も異なると思うから。しかし中国、中華の世界は1つである。中国とヨーロッパはおよそ同じ面積だが、中華は1つであることでその文化の分厚い魅力を紡いで来た。
―――しかしもしそこに、始皇帝がいなかったら?
春秋戦国時代は孔子に老子に商鞅など、「世の中」を考えた者があまた現れたが、その世の中を1つにしようと本気で目指し、本気で叶えたものは始皇帝しかいなかった。後世いかな悪評に塗れようが、「いない方が良かった」と述べた者がいないのは、その統一の恩恵に預かったからだろう。年号はBCとADで分かれるが、こと中国の場合は始皇帝による統一前と後で分けるべきではないかと思うくらいだ。
キングダムの作者、原泰久さんは、連載前当初は始皇帝を悪役、悪のボスとして描こうと思ったという。しかし史記を読み、歴史を学ぶ中で、その存在のあまりの大きさを知り、いまのキングダムの物語に至ったそうだ。僭越ながら僕も始皇帝関連の番組をこれまで10本以上作って来たが、知れば知るほど全容が、まだ見えぬ部分が大きく見えてくる人物。だからとびきり、魅力的だ。
今回、そんな始皇帝の素顔を探って中国を旅したのは岡山天音さん。類まれなるロケ運をお持ちで、おそらくこの10年日本のテレビマンで最も始皇帝関連の取材をして来た僕も、初めて目にするものばかり、取材することができた。旅の最後に岡山さんが抱いた感想に僕は強く頷いたが、その声を聞いている時に、背中にゾワっと誰か触れられた気がした。
霊は全く信じない僕だけど、岡山さんの言葉に呼応したのはもしかして黄泉の「彼」だったのか。
人類史が生んだ破格の超人たる始皇帝に、最新発掘と研究で迫る89分。是非ご覧ください。
(阿部修英)
出演 岡山天音
語り 柴田祐規子
総合演出 阿部修英
中国取材 楊燁(トップシーン)
撮影 李宸
コーディネート 白井黎(トップシーン)
編集 大川義弘(ビデオユニテ)
水墨画 興安
音響効果 黒田健司(d3)
演出補 園木杏実
山田侑菜
制作補 髙村安以
プロデューサー 近藤史人(NHKエデュケーショナル)
國分禎雄
関皓文(トップシーン)
制作統括 塩田純(NHKエデュケーショナル)
浜田裕造(NHK)