本当にあった幸せ物語 ~夢は旅の果てに~
41年間生きてきて、忘れられない言葉が三つある。
一つ目は、小学生の頃に父親から聞いた「お前が大きくなる頃には毛生え薬ができているから、ハゲに悩む必要はなくなる」という言葉。ちょうど父がハゲてきた時期で、毎日のように育毛剤を使いながら話していた。次は、高校時代に友人が言った「なんかゲゲゲの鬼太郎の目玉親父に似てるよね」。嫌な例え方をするな、と思った。最後は、大学時代の後輩の言葉で「太っている人に悪い人はいないですよね」。なんとなく納得した覚えがある。
人生の役になんにも立ってないけれど、人の記憶に残るものとは、こんなものなのかもしれない。人に伝えるほどのものではなくても「忘れられない」。ノスタルジックな響きはどこにもないけど「とても懐かしい」。
人間にはそれぞれに「忘れられないもの」がある。
あ・える倶楽部という旅行社が、介護の必要な高齢者や寝たきりのお年寄り、ターミナルケアの患者さんに向けた「最後になるかもしれない旅」を提供している。お客さんが望む場所は、「若い頃に住んでいた家をもう一度見てみたい」「戦時中に戦った場所を訪ねたい」「初恋の人がどうしているのか知りたい」「小さい頃から憧れていたオーロラを見たい」など。どんな平凡な願いにも、そこには忘れえぬ思い出があり、一人の人間の人生が詰まっている。医者の許可を取り、介護旅行専門のヘルパーが同行する旅。今回は「戦前に暮らしていた家を訪ねたい」という95歳の女性と、「ラーメンを腹一杯食べたい」72歳の男性の旅。でも、この何気ない旅の中で、どんどん記憶が甦り、これまで信じていた思い出の違いに気付き、自らの人生を振り返り始める。すると2人が歩んできた壮絶な物語が浮かび上がってくる。そして幸せとは何かを考えさせてくれる。生きるって凄いと思った。
まだ四十一歳。これから倍の人生を生きて、死が身近に迫った時、自分は何を思い出すのかな、と楽しみにもなった。先述した3つの話のままなら、それはやはり少し寂しい気もする。もっと別のことを思い出せる人生にしようと思った。
(東 考育)
語り
原田 知世
ディレクター
東 考育
池田 一葵
編集
大川 義弘
音効
井田 栄司
撮影
君野 史幸
坂本 聡
市川 元樹
撮影
君野 史幸
坂本 聡
市川 元樹