新日本風土記「東京島酒、もう一杯」

新日本風土記「東京島酒、もう一杯」

NHK BSP4K 2024年2月20日(火)21:00~21:59/NHK BS 2024年2月27日(火)21:00~21:59

太平洋に浮かぶ東京都の島々・伊豆諸島に、意外な美酒がある。ここは九州と並ぶ焼酎の名産地なのだ。大自然の中で醸される「島酒」、そして酒が欠かせない「島暮らし」を見つめるこの企画、実は長期熟成もの。コロナ禍が落ち着くまで、2年半寝かせていたのだ。

皆が集って酒を囲む日常が島の人達に戻ってきた2023年夏、いよいよ始動。酒の島々へ渡る日が近づくにつれ、自他ともに認める酒飲みである私は胸が高鳴った。週の半分を朝まで飲み明かし数々の伝説を残してきた私にしか、この企画きっとできない!誰も見たことのない酒の風景を撮ってくるぞ!と意気込んだ。
ところが約1ヶ月の取材中、私は酒を嫌いになりかけた。なにしろ肝臓が休まる日が1日もない。島で待ち受けていたのは、見たこともない酒豪たちだった。八丈島は「情け島」といわれるほど人情深く、「こっちへおじゃれ(いらっしゃい)」と島外からきた人を歓迎してくれる。知ってる人も知らない人も大勢で集い、酒とご馳走を囲んで楽しむのが日常。島ならではの酒の場を撮影したくて、漁師やおばぁたちの飲み会に日々お邪魔するのだが、カメラを構えていると「仕事なんてしてないで、飲め!」と酒を勧められる。「あとでいただきます!ところで…」とお話をうかがおうとしても、またすぐに「カメラ置いて早く飲め!」と全然撮らせてくれない。こちらも飲みたいのは山々だけど…3分に一度飛んでくる「飲め!」と、もっと核心に迫りたいという心の声の間で引き裂かれながら、…仕方なく撮影を中断して酒をいただいた。「いい飲みっぷりじゃないか!」酒盛りはますますヒートアップしていく。なぜ私が酒を飲んだだけで、そんなに嬉しそうな顔をしてくれるんだろう。酒ってなんだ?そもそも人はなぜ酒を囲むの?…そんなことをぐるぐる考えながら飲む島酒の日々。なにがなんだか、よく分からなくなった。
なんとか取材を終えた最終日。入った店で、漁師たちの忘年会に偶然出くわした。もちろん「おじゃれ!飲め!」。この日ばかりは撮影を忘れて、心置きなく酒を飲んだ。朝4時、別れ際に漁師の一人が「また飲もうな」と言ってくれた。その笑顔に、島酒を酌み交わした数えきれない人たちの顔が重なって、急に帰るのが寂しくなった。やっぱり私は酒が好きだ。

【語り】松たか子

ディレクター

宇都浩一郎
(新島取材/編集/構成)
木村麻衣子
(八丈島・青ヶ島取材)

撮影

篠原裕弥

照明/音声

丸山洋平

音響効果

井田栄司

制作

海老名真有美

プロデューサー

國分禎雄 宇都浩一郎