食彩の王国 2016年12月

食彩の王国 2016年12月

永六輔さんは、常に批判精神を秘めた独特の表現と活動で、サブカルチャーをメインカルチャーに押し上げた人だ。また、話して聴かせる表現を好んだ。古来、情報は語ることが中心だった。浅草の浄土真宗の寺に生まれた永さんは、大衆的な説教を聞いて育った。それが、現代の語り部として生きることに向かわせたのだろう。永さんがラジオに情熱を傾けてきたのも頷ける。そして、真面目なことを言う気恥ずかしさを、ジョークのオブラートで包んできた。全国各地で小さなお話の会を開き、風刺やユーモアで世相を語る姿は坊さんの辻説法そのものだった。
永さんは、テレビに出るタレントが物を食べて、「美味しい!」と言うのを嫌っていた。自分でも、旅先で物を食べるシーンがあると、「食べるところは撮らないで!」と言っていた。そのかわり、その裏側でどんな努力が払われたかを克明に語り、持ち味を伝えようとしていた。あるいは故事来歴によって、目の前の食べ物を浮き彫りにした。
10月から放送14年目に入る「食彩の王国」は、食材を通じて紡ぐ日本人論だ。食べるシーンを使わないのは、永さんの影響も大きい。
(土橋正道)

語り

薬師丸ひろ子

放送予定

    OA日      テーマ  担当D
#657 12月 3日 : サケ   細村舞衣
#658 12月10日 : 生姜   ※VIVIA
#659 12月17日 : 神戸牛  河野あや子
#660 12月24日 : ホッケ  ※VIVIA 

12月のテレビマンユニオン 担当回は・・・ 

『サケ』
宮古市の人たちにとって、鮭は特別な存在です。
「鮭は宮古のソウルフード!」と叫んでいたのは、競りで出会った中卸の方。
極寒の海に出る漁師は、震えながらも笑顔で「鮭漁があると気持ちが昂ぶる」と言っていました。
町には更地が目立ち、未だ震災の爪痕を感じさせます。
大きな被害を受けてしまった鮭のふ化場。その再建に尽力した場長が冗談っぽく言った、「宮古で俺を知らないやつはモグリだ」という言葉の重みは本物でした。
ロケの最終日、東京に戻る間際、鮭の中骨缶詰を作る高校生たちが見送りに来てくれました。小雨が降る中、白い息を吐きながら口々に言っていた言葉が忘れられません。「うわマジ、超サムゲタン!」元気な宮古の人たちと鮭のドラマです。
(鴨下 満)

『神戸牛』
日本に近代化の波が押し寄せた明治、「肉食わずして文明開化にならず」と世間の人に言わしめたのが牛肉。
一斉に海外の牛と交配して品種改良がされる中、唯一、純血を守ったのが但馬牛でした。その中でも超一級品とされる神戸牛は、神戸港開港とともにやってきた外国人に愛され、和牛といえば「KOBE BEEF」と言われるほどに。オレイン酸を多く含み、常温で脂が溶け出すほど滑らかな口どけの肉質は、まさに牛肉界のプリンスです。
でも、僕は知ってしまった・・・。牛の愛らしいつぶらな瞳、人懐っこい気質と好奇心旺盛な一面を。「もう牛を食べない」そう決めたその日の夜、ステーキ、しゃぶしゃぶ、すき焼きの三重奏を目の前に耐えられなかった己の愚かさをどうか、お許しください。
(間宮 圭次郎)

プロデューサー

土橋正道

アシスタントプロデューサー

平田早季

ディレクター

前夷里枝
植田裕久
田中由美
細村舞衣
永田暁児
橋本倫
阿部賢実
岸元美江

リサーチ

北口由子

アシスタントディレクター

鴨下満
間宮圭次郎